「だしのとり方」(1)ーー北大路魯山人

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 かつおぶしはどういうふうに選択し、どういうようにして削るか。まず、かつおぶしの良否の簡単な選択法をご披露しよう。よいかつおぶしは、かつおぶしとかつおぶしとを叩き合わすと、カンカンといってまるで拍八木か、ある種の石を鴫らすみたいな音がするもの。虫の入った木のように、ボトボトと音のする湿っぽい匂いのするものは悪いかつおぶし。
 本節と亀節なら、亀節がよい。見た目に小さくとも、刺身にして美味い人きさのものがやはりかつおぶしにしても美味だ。見たところ、堂々としていても、本節は大味で値も亀節の方が安く手に入る。


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 次に削り方だが、まず切れ味のよい鉋を持こと。切れ昧の恋い鉋でばかつおぶしを削ることはむずかしい。赤錆になったり刃の鈍くなったものでゴリゴリとごつく削フでいたのでは、かつおぶしがたとえ百円のものでも、五十円の値打ちすらないものになる。
 どんなふうに削ったのがいいだしになるかというと、削ったかつおふしがまるで雁皮紙のごとく薄く、ガラスのように光沢のあるむのでなければならない。こういうのでないと、よいだしが出ない。削り下手なかつおぶしは、死んだだしが出る。生きたいいだしを作るには、どうしても上等のよく切れる鉋を侍たねばならない。そしてだしをとる時は、グラグラッと湯のたぎるところへ、サッと入れた瞬間、充分にだしができている。それをいつまでも入れておいて、クタクタ煮るのではろくなだしは出ず、かえって味をそこなうばかりである。いわゆる二番だしというようなものにしてはいけない。
 そこで、まず第一に、刃の切れる、台の平な鉋をお特ちになることをお勧めしたい。かつおぶしを非常に薄く削るということは経済的であり、能率的でもある。
 なお、わたしの案ずるところては、百の家庭のうち九十九までがいい鉋を特っていまい。料理を講義する人でも、持っていないのだから、一般家庭によい鉋を侍っている家は一応ないと考えて差し支えない。
ーーー続く
『魯山人美味探訪 だしのとり方』(「魯山人著作集 第三巻 料理論集」平野雅章編 五月書房刊より)

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